最高裁判所第三小法廷 昭和45年(オ)1239号 判決 1972年11月28日
上告人
本願寺
右代表者
大谷光暢
右訴訟代理人
中村正治郎
高橋吉久
被上告人
雙林寺
右代表者
野竿智猷
右訴訟代理人
北川敏夫
姫野敬輔
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人中村正治郎、同高橋吉久の上告理由について。
原審が適法に確定した事実によれば、当時被上告人の代表役員であつた森山イトは、宗教法人法二三条および宗教法人雙林寺規則二〇条所定の手続を履践することなく、本件調停により原判決添付目録第一記載の境内地を上告人に譲渡したというのである。したがつて、右譲渡は、宗教法人法二四条本文の規定により、無効であるというべきである。もつとも、同条但書は、「善意の相手方又は第三者に対しては、その無効をもつて対抗することができない」と規定するが、同条本文に記載する物件が宗教法人の存続の基礎となるべき重要な財産であり、特殊な利害関係人を多数擁する宗教法人の特性に鑑みるときは、右但書の規定は、善意であつても重大な過失のある相手方又は第三者までも保護する趣旨のものではないと解するのを相当とする。そして、原審が適法に確定した事実関係のもとにおいては、本件調停に際し被上告人側に弁護士である代理人がいたことを考慮に入れても、上告人の代理人であつた山下知賀夫に重大な過失があるとした原審の判断は、是認できないものではなく、したがつて、被上告人が前記境内地の譲渡の無効を上告人に対抗することができるとした原審の判断は、正当として首肯することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(田中二郎 下村三郎 関根小郷 天野武一 坂本吉勝)